【完】『道頓堀ディテクティブ』
その週末。
「今度まりあちゃんの歓迎会しやなあかんな」
「どこにします?」
「こないだ宗右衛門町にお好み焼き屋みつけたやろ、あれがえぇと思うんやが」
「よろしでんなぁ」
大二郎が言ったすぐあと、
「はい、久保谷探偵事務所です」
すっかり電話番に慣れてきたまりあが、黒電話の受話器を取った。
「はい、少々お待ちください」
島さんからです、とまりあが穆に取り次いできた。
「島さんから…?」
既に報告は済んだはずである。
「はい代わりました、久保谷です」
しばらく受話器を手に話を聞いていたが、
「いや、それは…はぁ、是非にという依頼でしたら、お伺いいたします」
日取りと場所を決めると、通話は切れた。
「…どうしたんですか?」
「夫婦で話し合いの場を持つことになったんやが、そこに第三者として立ち会ってもらいたいって」
戸惑うのも無理はない。
元来なら司法書士か弁護士の仕事で、探偵がする内容の職務ではない。
「しかも俺とまりあちゃんで来て欲しいって指名やってん」
これにはまりあも目を丸くした。
「ご指名やんか」
ニヤニヤした大二郎の余りにもデリカシーのない言い回しに、
「…バカっ!」
まりあのビンタが大二郎にヒットし、張られた大二郎は尻餅をついた。
「…年頃の女の子は、よう分からへん」
大二郎は殴られた意味すら、どうやら分からなかったらしかった。