真夜中の猫

パジャマパーティー

その日はおじちゃんが初めて寛美の家に泊まりにくる日だった。
朝から鈴と航は大騒ぎで、おじちゃんをどこに寝させるか、寝る時に読んでもらう本まで決めていた。
亮は奥さんが旅行でいないから泊まりにくると言っていた。
寛美は奥さんに後ろめたい気持ちがしていた。
だが、この間の雨の夜の事を思い出すだけで、体が熱くなり亮を求めているのが分かった。
一線を超えてしまったものの、これ以上は自分が傷つき、亮との思い出をすべて失ってしまうような気がしていた。
鈴と航の前では母親でいようと心に決めていた。

おじちゃんは昼過ぎに来た。
真冬の冷たい北風が吹く中、ほっぺたを赤くして鈴と航と三人でサッカーをしていた。
何時の間にか近所の子も混ざり、ちびっ子サッカー教室になっていた。
亮は教えながらも楽しそうに子供達と遊んでいた。
「ママもおいでよ。」
亮から呼ばれた。
ママ、と。
寛美はくすりと笑って上着を羽織って子供達に混ざった。

早めの夕食をすませると、鈴と航はおじちゃんを連れてお風呂に入った。
寛美が洗い片づけをしていると、バスルームから賑やかな声が聞こえた。
ただなんでもないこの日常が幸せだった。

みんながパジャマに着替えると、まさにパジャマパーティーのように鈴と航はおじちゃんと布団の上ではしゃいでまわった。
6畳のリングの中で2対1のサドンデスが繰り広げられた。
鈴と航は興奮して、寝る気配はなかったが、さすがにはしゃぎ疲れたのか、明かりを消すとすぐに寝息を立てた。

亮もだいぶん疲れていたので、2人でゆっくり晩酌に酎ハイを飲んだ。
「いっぱい遊んでくれてありがとう。」
「あんなんでいいのかな。」
亮はソファーにゆっくり腰掛けた。
寛美は少し離れたダイニングテーブルの椅子に座った。
「亮は子供が本当に好きなんだね。」
「嫌われた事はないね。」
亮が酎ハイを飲みあげて、グラスをテーブルに置いて話し始めた。
「あのさ、俺があの子達の父親になってもいい?」
寛美はハッとした。
「どういうこと?」
「俺もバツ1になったんだ。だから自分の家族を作りたいと思って。俺の家族は鈴と航と、それから寛美になってもらいたい。」
寛美が黙って聞いていると、亮はポケットから何かを取り出し寛美に近づいた。
「俺と結婚してくれる?」
そう言って、亮は黒い小さな箱を寛美に手渡した。
寛美がそっと開けると、中にはゴールドのリングが入っていた。
「本当に?」
「そう。」
寛美は混乱していた。亮への想いは変わらないが、これ以上の進展を避けていた矢先の出来事だったからだ。
亮はいつも唐突だった。寛美が追いかけると逃げ、一歩引こうとするとつかまえにやってくる。
「返事は?」
亮は意地悪な顔で笑っていた。
寛美は涙を流しながら頭を縦に振った。
「それじゃ分からない。」
「だって本当にいいの?今までだってうまくいかなくなってダメになった事あったのに。」
亮は首をふった。
「寛美は変わったよ。お母さんとしてしっかり子供育ててる。あの子達みたらすぐ分かる。今までいろんな事があったけど、そのおかげで今があるし乗り越えていけると思う。だから俺と結婚してくれる?」
寛美は涙を拭いて答えた。
「はい。」
2人にとっては二度目のプロポーズだった。




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