真夜中の猫

地下のレッドカーペット

「いつか子供ができたら名前はさやかにしようね」

昔、そんな約束をした。
だけど、2人は別々の道を歩み、寛美には鈴と航が産まれた。
そして、遠回りをしてゆっくり時間をかけて、2人は一緒になり、鈴と航と4人家族になった。
どこからみても幸せそうな本当の家族にしか見えなかった。

結婚式は挙げないことにした。
大袈裟なことが嫌いなのと、鈴と航を大切にしたいという気持ちから、自分たちのことは後回しにした。
6月の日曜日に亮と寛美は鈴と航を連れて市役所に婚姻届を出しに行った。
梅雨入り前のよく晴れた日だった。
時間外の窓口に行くには、暗い階段を降りて地下に行かなければならなかった。
階段にはなぜかレッドカーペットが敷かれていて、ささやかながら2人を祝福しているかのようだった。
地下の暗い窓口にいる警備係のおじさんに婚姻届をだした。
「不備があればまた連絡します。」
味気ない祝福の言葉が響いた。
レッドカーペットの階段を登る途中、
「これで本当に夫婦になれたね。」
「これからよろしくお願いします。」
と言って、2人は軽くキスをした。
鈴と航は笑顔で見ていた。
4人だけの結婚式は地上からこぼれた日差しから祝福を受け、厳かに行われた。


婚姻届を出してしばらくすると、子供たちが唐突に聞いてきた。
「ママ、結婚したから赤ちゃん産まれる?航は弟がほしいな。」
「鈴は女の子がいい!」
亮と寛美は少し驚いた。
鈴も航も兄妹の誕生を待っている。
寛美も思っていた。確かに亮は父親としてしっかり子供達を支えていてくれる。だが、亮の子供がいてもいいんじゃないか?
将来、争うようなことにならないか心配もしたが、こんなに待ち望んでくれているなら、それも許されるのか?と。
亮は口にはしなかったが、自分の子の誕生を夢見ていた。
鈴と航はかわいい。だが、生まれてから育児をずっとしてきたわけではない。
これから生まれてくる子を同じように愛し育てて行きたいと思っていた。


その夜、子供達が寝静まって2人で話した。
「2人があんなに言ってくれるんなら、いいのかな?」
「…さやか?」
寛美がクスリと笑って答えた。
「そう。あの約束、覚えてる?」
「うん。」
「3人兄弟か。賑やかになりそうだね。」
「パパ大変じゃない?」
「大丈夫。赤ちゃんのことはよくわからないけど、ママを支えられるように頑張るよ。」
寛美は亮の肩にもたれかかり、2人は手をしっかりと握りしめた。



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