せいあ、大海を知る
真剣な顔で黙々と入力している桂馬が、指を動かすのを止めてふうと息を吐いた。


「さっ、これでいいはず」


入力が終わったみたいで、差し出された画面を桂馬と一緒になって覗き込んだ。指定されたページの接続しようと、携帯が頑張っているところだった。


そして、接続されたのはやっぱり私たちもよく利用するソーシャルネットワークサービス。だけど、名前も見ても、にっこりと笑った男の人の写真を見ても、これが誰だか分からなかった。


「……えっと、これ誰?桂馬は知ってる人?」


いくら思い起こしても、私の記憶の中には確実に存在しない人だと思って、桂馬に尋ねた。もしかしたら、勝家さんと桂馬の共通の知り合いだったって展開かもしれないから。


だけど、その予想も外れているらしい。


「俺も知らない人」


ゆっくりと首を横に振りながら呟いた。


「そっか……」


じゃあ、これは一体誰なんだろうか。何かしらの意図があって送られてきたもののはずなのに、よく分からない。


これは勝家さんに連絡して、会ったときに確認した方が良さそう。


目の前の桂馬をそっと盗み見ると、まだ難しい顔をして考え事を継続しているようだった。


静かな空間に焦れてしまった私は、ソファの上に無造作に投げられていたテレビのリモコンを手に取り、静かだった箱の電源をいれた。


これで無音ってことはなくなるだろう。そう思った瞬間に、私と桂馬のから一斉にメールの着信音が鳴りだした。


携帯を手に持っていた桂馬が私より一足先にメールを確認して、そして目を見開き驚いた顔をしたまま暫し固まってしまった。


桂馬の行動にきょとんと首を傾げながら、私も自分の携帯を手に取り表示されている名前を確認した。すると、あとで連絡しようと思っていた勝家さんが差出人だった。


連絡する手間が省けてラッキーとか、軽い考えで私もメールを開き内容の確認をする。


……桂馬と全く同じ反応をしてしまった。





これはパンドラの箱





たったそれだけの内容に、なぜか心臓が大きく跳ね、どくどくと大きく鳴り始めた。そして、胸が騒めいて、なんだか嫌な予感。急に不安に襲われた。


自分の鼓動が、自身にだけ鳴り響く警報のようだと感じた。
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