獅子座流星群
「はい。切ったのは最近なんですけど」
「やっぱり。女性は髪型を変えただけで雰囲気も変わるよね」
今度の作品にも使おうかな。冗談だか本気だか分からない言葉と小さな笑みを残し芦萱先生は今さっきまで私と佐伯さんが使っていた部屋に入っていった。打ち合わせで使うのだろう。
佐伯さんは神妙な面持ちで芦萱先生が入っていった部屋の扉を見つめている。まだ話したいのに、とその横顔に書いてあった。
「佐伯さん、ここまででいいですよ」
佐伯さんは、私の前は芦萱先生を担当していたのだ。
「え?」
「わざわざ下まで送って下さらなくて結構です」
「しかし…」
「本当に結構ですから。じゃあ、あの、お疲れ様でした」
軽くお辞儀をしてから速足にその場を離れた。「あ、高橋先生…」と呟く声は聞こえたけど、その声は引き止めるものではなく。
ガチャっと―――――――見なくとも佐伯さんが芦萱先生のいる部屋の扉を開けた―――――音を聞いてから、エレベーターに乗り込んだ。