聖乙女（リル・ファーレ）の叙情詩～真実の詩～

２

ラミアードの手の中で火打石と火打ちがねが火花を散らす。それは地面に積まれた薪に燃え移り、小さな火があがる。それをカイが息を吹きかけ、器用に大きな炎へと育たせていく。

「…洞窟探検を思い出しますね」

カイの呟きにラミアードは微笑む。彼もちょうどそれを思い出しているところだった。

「ああ。朝一番に湖の館へ行って、お前を連れ出したっけ。でも道に迷って、肝心の洞窟に夜になっても着かなくて、夜営したな」

「はい。見よう見まねで火を起こそうとしましたけど、私にはうまくできなかった…。結局殿下が器用に火を起こしてくださいました。殿下は本当に、あの頃からなんでもお上手でしたね」

「何を言うか。火を起こしたのは、私もあの時がはじめてだったんだよ」

―今では二人ともこんなに上手に火を起こせる。

二人は流れた年月を思って少しぼんやりした。

あの頃と変わらぬ焚火の光が二人の心を遠い過去にタイムスリップさせる。こんな小さな焚火の光さえ、宝石のようにきらきらと輝いて見えたあの頃に。

『すごいやラミアード』

変声期前の少年の声が自分を呼ぶ。

「…もうラミアードとは呼んでくれないんだな…」

「え？　何か言いましたか？」

「…いや、なんでもない」

炎が大きくなると、ふたりは荷物の中からパンを取り出して軽くあぶり、夕食にした。それが終われば就寝だ。カイはラミアードのために地面を掘り起こし、「夜は冷えますから」と自分の分の毛布までくれようとしたので、ラミアードは苦笑せざるを得なかった。

「カイ、お前は変わっている。一度でも自分を殺そうとした男に、どうしてそこまでできる？」

「…そんなこと。気にしていません。これでも殿下のことを少しはわかっているつもりです。殿下はあの時よほど追いつめられていらっしゃっただけなのです。それに…リューなんて」

カイが言いながら突然瞳をかげらせうつむいた。

「リューなんて一度は実際に自分を殺めた男のことを、今も……」