聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
カイは真剣そのものでうつむいているのだが、ラミアードはカイのセリフに少し微笑みそうになった。それはどうかなと思ったのだ。本当にリュティアの気持ちはその男にあるのだろうか。しかし、賢しらに口をきくことをラミアードは避けた。かわりに星のきらめく空を見上げてこう言った。

「…お前がリューを好いているのはずっと前から知っていた」

「え…?」

「羨ましかったよ。私は恋をしたことがないから」

それはラミアードの本心だった。

「一番好ましいと思う女性はリューだがな、血が繋がっていないと知った今もかわいいかわいい妹だよ」

その台詞に、カイが心底からほっとしたような表情を見せたのがラミアードには意外だった。

「それは…よかった」

カイが大げさに胸をなでおろしてみせるので、ラミアードは片眉を跳ね上げる。

「おや、なぜ?」

「これ以上恋敵が増えるのは勘弁してほしいですから」

「はは、お前も苦労するな」

「いいんです。私のたったひとつの夢ですから、少しくらい苦労しても…」

「夢か…いいな」

二人のはるか頭上を、流れ星がひとつ流れた。

「私の夢は、幼い頃からずっと同じ。立派な王になること、ただそれだけだったな…」

そう呟いてみて、ラミアードは何か違和感のようなものを感じた。

―本当にそうだったか…?

しかし違和感の正体はつかめず、記憶を探る掌をすりぬけてしまう。なんだろう。何か思い出さなければならない、大切なことがあるような、そんな気がした。
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