聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
今、リュティアに、容赦なく現実が突きつけられようとしていた。

聖なる守りの気配を吹き飛ばすほどの闇の力…思い当たる人物は一人しかいない。一人しかいないのだ。

彼は敵だ。敵なのだ。

その現実が重く静かに、リュティアの中に沈んでいく…。リュティアはゆっくりと瞳を閉じる。それを受け止めるために、受け入れるために…。

―ライト様は私を好きだと言った!

心が叫ぶ。けれどその叫びに静かな声が覆いかぶさる。

―たとえその言葉に嘘がなかったのだとしても…。

―たとえあれほどの、あれほどの切ない想いがやっと通じていたのだとしても…。

それでも叶わない恋があることを、叶えてはならない恋があることを、少女はこの時はじめて知った。思い知らされた。ひとつ大人の階段をのぼったのだ。…無理やりに。

「…さよなら……」

誰にも聞きとることができないような小さな声で、リュティアはそう呟く。

それは…年月を経て育まれていた彼への恋心を、完全に捨て去るための、決意の言葉だった。

「…さよなら…ライト様……」

そして。

リュティアは力強く瞼をあげた。

「…わかりました、私がまいります! アクス、馬を!」

リュティアは凛と背筋を伸ばして足を踏み出す。

…この一歩で、リュティアとライト、二人の道は、違えられた。
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