聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~

ラミアードは深い失意の中、馬を駆っていた。

宝剣アヌスは今、何重にも布を巻かれて、彼が持参してきた剣と共にラミアードの腰にある。

宝剣アヌスに、カイが手を触れることを強く拒んだからだ。

ラミアードはこれをリュティアに差し出すことを思うとひどく気が塞いだ。

この剣がもしもリュティアをも拒んだら…その時カイはどうするつもりなのだろう。

どちらにせよ、選ばれなかった自分はこれから何を目標にして生きていけばよいのだろう。そんなことが頭の中を際限なく駆け巡っていた。

ラミアードとカイの二人が馬上からそれを見つけたのは、王都の郊外に差し掛かる頃だった。

「なんだこれは…?」

道端に重々しい存在感を持って転がっていたもの、それは人の形をした石像だった。

その石像の瞳は恐怖に見開かれ、体は必死で逃げようと駆けだすような形をしている。趣味の悪い石像だ。ラミアードはそれに何かうすら寒いものを感じた。隣のカイも同じだったのだろう。

「こんな石像……ありましたか」

呟くカイの表情も強張っていた。

「いや……」

二人はそれきり黙りこみ、そのまま馬を駆けさせた。馬の背に揺られながら、ラミアードは深い失意を上回る何か胸騒ぎのようなものを感じていた。第六感といえばよいだろうか。何かただならぬことが起こっているような、そんな気がしたのだ。

その悪い予感は的中してしまった。

二人の前に、再び人の石像が転がっていたのだ。今度は何かを見上げ、腰を抜かしたような男と、その背中にしがみつく子供の石像だった。

二人は馬を止め、石像に駆け寄った。

隣のカイがみるみるうちに青ざめる。

「この顔…知っている。一緒に農場で働いた親子だ…! まさか……!」

「カイ…?」

カイには何か心当たりがあるようだ。まさか、どうしたというのだろう。
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