聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
この時ラミアードの脳裏にも一瞬カイが抱いている予想と同じ予想が駆け巡ったのだが、にわかには信じられずラミアードはただただ瞳を険しくする。

「殿下、急ぎましょう…!!」

二人は馬に乗り先を急いだ。前を行くカイが迷いなく道を折れる。この先は郊外の農場だったはず、とラミアードは記憶を手繰り寄せる。

農場が近づくにつれ、さまざまな姿勢の人の石像があちこちに頻繁に現れるようになった。

ラミアードの中の疑念が強まる。

まさか…この人々は…。

しかしありえない、リュティアの聖なる力が世界を守っているはずなのだから。

そう思ったが、ラミアードは同時に今自分を包む濃密で禍々しい気配に勘付いていた。それは聖なる力とはほど遠いものに思えた。だがそれは、頭上に重く垂れこめる灰色の雲がそう思わせるだけだと信じたかった。

不意に、悲痛な叫び声が二人の耳を打った。

ちょうど農場にたどりついたところだった。王都を守る堅固な結界の境目の光が見え、大勢の人々がそこに向かって我先にと走っている。

アクスの姿が見えた。彼は結界の外におり、農場の人々を結界の中へ誘導しているようだ。

「アクスさん! いったい何が――」

隣のカイが声を張り上げたその時、二人の頭上に大きな黒い影がさした。

見上げた二人の視界に、鮮やかな紫色の翼が広がる。

―鳥か!? なんて巨大な…

ラミアードがそう思うのと、巨鳥から何か光のようなものが逃げ惑う人々に向けて一直線に発射されるのは、ほぼ同時だった。

「わぁぁぁぁぁっ!!」

光を全身にまともに浴びた男の絶叫がびりびりと空気を震わせる。

瞬きの後、ラミアードは信じられないものを目にした。
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