聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
なぜこんなところに、と思う間もなく、巨鳥は一直線に降下して、くちばしで鋭い攻撃を仕掛けてきた。

間一髪、身をかわしたカイの頬を一筋の赤い線が走る。血の軌跡を羽が巻き起こす風が散らす。

「私はヴァイオレット。

ライト様の様子がおかしいので念のためにと見に来れば、子供がこんなところへの扉を開いているではないですか。

とんだ小細工ですが、よくもまあ、こんなところまで聖乙女を助けに来ようとは、敵ながら見上げたものです。

それは愛というのですか? 私には理解しかねますが、確かに美しい。私は美しいものが好きだ」

言いながら、巨鳥ヴァイオレットが降下した体をすばやく反転し、羽をひらめかせる。

すると刃のように鋭くとがった羽根が数枚、カイを狙って放たれ、咄嗟にとびすさったカイの足元をかすめてびぃんと針金のように地面に次々と突き立つ。

草はすっぱりと絶たれ、地面は深くえぐれている。カイはごくりと唾を飲み込む。

「ですが、知っていますか? 

この世には愛よりも美しいものがあることを。

それは死です。

死は、何よりも美しい―私は美しい死を見たい。あの子供を狙うだけでは美しい死が見られなかったのでね、こんなところまで来てしまったくらいです。

さあ、見せてください。美しい魂の死を! 石となりて死に、永遠の美しさを得るのです!」

―石となる…!?

カイにはヴァイオレットが何を言っているのかわからなかった。だが数瞬後、すぐにその意味を思い知らされることとなった。
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