聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
セラフィムが目を開けると、目の前に愛しいフューリィの幻が見えた。

泣き腫らした目で、じっと自分を見下ろしている。

セラフィムは何度も何度も瞬きをした。しかしフューリィの幻は消えなかった。

「フューリィ…? これは…夢か…?」

セラフィムがかすれた声でそう呟くと、フューリィの顔がたちまち歪んだ。ふいにその労働で荒れた手が伸びてきて、セラフィムの頬をつねる。フューリィはもう片方の手で自分の頬もつねっている。

「夢じゃ、ない…夢じゃないよ。ほら…ちゃんと痛いもの…」

「ああ、痛い…」

フューリィの瞳から堰を切ったように涙があふれ出した。セラフィム様、と自分の名を呼ぶフューリィの声にならない声をセラフィムは確かに聞きとった。

フューリィはわんわん泣きながら、セラフィムに抱きついた。

そのすぐそばでカイが目覚めた時、彼の頬を一筋の涙が伝っていた。

それは感動の涙だった。

カイは見たのだ。見てしまったのだ。

「おにーさん! 大丈夫!? 乙女は!?」

すぐそばで必死の形相で叫ぶパールの声は、残念ながらカイの耳には入っていなかった。

カイは身を起こし、すぐさまリュティアを抱き起こした。

カイの腕の中で、リュティアがわずかに身じろぎする。小さな呻きがその唇からこぼれる。そしてゆっくりと、その白い瞼が持ちあがる…。

薄紫色の宝石が、カイを見上げる。

長い桜色の睫毛が揺れ、数度瞬く。
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