聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
「ライト様という方で…私の星麗の騎士様だと思っていたのです。私は彼に告白したけれど、…ひどく拒絶されてしまいました。それが辛くて、痛くて、苦しくて…もうこのまま死んでしまいたいとすら思ったのです…でもカイが、共に生きたいと言ってくれた…覚えています、私のために、あんなところまで来てくれた…そして今また、私を救ってくれました」

リュティアが長い桜色の睫毛をあげ、まっすぐにカイをみつめた。

「ありがとうカイ、あなただけが、私をわかってくれる…それがどんなに嬉しいか、かけがえがないか…私もあなたを」

リュティアは不意にそっとカイの手を取った。そして大切な宝物のようにその胸に抱きしめて笑った。

「愛しています…」

抱かれたカイの手に、リュティアのこぼれ忘れた涙が一粒落ちた。

カイはくらりとめまいがするような感覚に我を忘れた。

うるんだ薄紫の瞳が自分だけを映している。

―これは夢ではないだろうか。

―夢なら覚めないでくれ。

「あなたを想うと、あたたかくて、他の人には抱いたことのない気持ちになるのです。この気持ちはまだ、恋じゃないかも知れないけれど、でも、今の私にとって一番大切な気持ちです。これからも、カイに側にいてほしい…こんなあやふやな気持ちじゃ、お返事にならないでしょうか…好きな人がいたのに、いい加減だって思われるかも知れません…でもこれが、私の正直な気持ちなのです…」

カイは緊張のためひどくのどかかわいていることに気がついた。

けれど、何か言わなければ、そう思った。

「いや………嬉しい………」

それしか言葉が出てこなかった。

その自分の言葉が呼び水となって、カイの胸にこみあげてくるものがあった。

「嬉しい……」

カイは改めて、リュティアの体を自分の両腕の中にきつく閉じ込めた。

リュティアの体はやわらかく、ほのかに花のようないい香りがした。

リュティアの手がカイの背にまわり、優しい力がこもるのを感じた。その瞬間、カイは嬉しくても涙があふれてくるものなのだとはじめて知った。

リュティアの言うように今はまだ恋じゃなくても構わなかった。

根気良く優しく育んでいけば、きっと恋に変わる何かがあるはずだと、今のカイには信じることができたからだった。

間違いなくこの宵、リュティアの心はライトではなく、カイのそばにあった。
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