聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
これらの日課も、なんでも自分でやらなければ気のすまない性格も、派遣され十年も務めたヴァルラムの副総帥時代と何も変わらない。だが彼の心持は天と地ほどにも違った。

総帥職には昔から憧れていた。だが、それは彼を生粋の武人に育て上げてくれたヴァルラムの総帥職か、大規模を誇った前フローテュリアの総帥職だからこそ憧れていたのだ。

現在のフローテュリアの軍は大きく分けて近衛と陸軍に分けられる。

陸軍と言えば聞こえはいいものの、実際は自警団ほどの規模である。

ヴァルラムから数多くの精鋭を貸し与えられ、なんとか体裁を保っている程度の軍である。その総帥になったとて、素直に喜べるはずがなかった。

軍に人が集まり立派に成長すれば、派遣されていたヴァルラムの兵たちは領土を下賜され祖国に戻ることとなっているから、グラヴァウンもその時に願い出て意地でもヴァルラムに行くつもりだった。

この彼の決意を固くしているのは女王の存在だった。

軍を蔑にし、練習に顔すら見せようとしない女王に、彼は失望していた。

軍と固い絆で結ばれた国王エライアスや、気さくに皆と剣を振り回して笑うフレイア王女が懐かしかった。

馬の手入れが終わると風呂を済ませ、朝議の時間となる。

鳳凰の間に入るなり、グラヴァウンはおや、と片眉を跳ね上げた。

女王の顔つきがいつもと違うと感じたのだ。何かふっきれたような、堂々とした雰囲気を感じる。お気楽な女王のこと、大方よい夢でも見たのだろうとグラヴァウンは思った。

朝議が終わると街で警備の仕事をし、遅めの昼食、それから練兵場での兵たちの訓練の時間となる。
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