純愛は似合わない
「でも段々絆されてきてるし。……ほら。早紀ちゃんの口元、笑ってる」

ヒロは手を伸ばし、私の唇の横に出来ているだろう笑い皺を撫でた。

「ね、俺といると浮上してくるでしょ。こういうの今の早紀ちゃんには必要なんだよ」

彼は小器用にウィンクを飛ばし、もう一度飲み掛けのビールを私の手に押し付けた。そして、自分のネルシャツのボタンを外しにかかる。

「……やだ。人の目の前で着替えないで。ビール片手に、なんてショーみたいじゃない」

「アハハ、ストリップして欲しいんなら全部脱ぐよ。楽しめるかは微妙だけどねぇ。前はジムに行ってそれなりに頑張ってたけど、流石に今はまだ時間がとれなくてさ」

俺って筋肉付き難いらしいんだ、とご丁寧な解説付きで鑑賞させられたヒロのスラリとした体躯は、無駄なものが全くついていなかった。

「身体は資本だけれど『商品』じゃ無くなったんだから、筋肉の増減くらいわけないでしょ」

「いやいや、早紀ちゃんの好みの問題」

ヒロはニヤリと笑って真っ白いシャツに袖を通した。

「好みねぇ……」

「だってさ、あれが早紀ちゃんの好みだとしたら、俺って結構外してるでしょ」

ヒロの言う『あれ』は速人を差しているのだろうけれど、好みとかそんな単純な話しだったら、どんなに気楽なことか。

「ヒロは美人さんだと思ってるけれど」

「早紀ちゃん、そりゃ無いよ。美人は褒め言葉じゃないっての」





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