純愛は似合わない
ヒロは私に居場所を与えようとしてくれている。冗談の裏側に柔らかな眼差しを添えて。

この何年間も、この悪友の居心地の良さに甘えていた。

「最上級の褒め言葉のつもりなんだけど」
 
私は少しばかり力を込めて、彼の腕を掴んた。

「あ~あ、もうっ。また難しい顔に戻っちゃった。友野氏の話しは禁句だったかなぁ」

「禁句なんて、そんなもんじゃ無いわよ。ただ」

「ただ?」

言い淀む言葉を引き出すべく、ヒロは促すように小首を傾げた。

「…………手に入らないと思うと欲しいってこともあるじゃない」

「早紀ちゃんのそれが友野氏って話しね」

長い時間を掛けて捻じれた執着心は、何処に着地点を求めて良いのか分らない。

私が返事をせずにヒロの顔を見上げると「早紀ちゃんも、そんな顔するんだ」と、ヒロは困ったように眉尻を下げた。

酷い表情をしている自覚はある。

情けない顔を見せたくなくてヒロから顔を背けると、彼は両手で私の顔を挟んで頬の肉を引っ張った。

「我慢強いのは美徳じゃないやね、早紀ちゃん」


昨日から、思考がロクでもない方向へシフトしていた。
幾つかの疑問と答えを勝手に反芻しては、それを打ち消すように帳簿へ集中しようと躍起になった。

……例えば。
父が私をホテルから締め出したのは、光太郎から遠ざけるためでは無くて、全ては友野家の為では無かったのか。

そして父の友人でもある友野の両親は、あの人達の分けてくれた優しさは本物だったのだろうか。




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