純愛は似合わない
光太郎は一通りの挨拶を済ませた後、今度の懇親会について「お任せ下さいませ」と成功を請け合った。
その言葉を聞いた速人は鷹揚に頷く。
「早紀が奔走してくれたようだし。あとは土橋さんにお願いしますよ」
速人は抜け目のない男だ。
甘い瞳を私に向けて、内容はともかく光太郎達にも聞こえただろう先ほどの言い争いを、単なる痴話喧嘩にすり替えた。
「僕もまだ就任直後の忙しい時期で中々時間が作れないもので、早く落ち着きたいんですがね」
今回の早紀のフォローはありがたいんですよ、と私が率先して計画を立てたかのように話す。
……どんな顔をしたら良いのよ。
どんなに酷い顔をしていても、これではただの拗ねている女になってしまう。
速人は、もう一度愛しいものを見るような眼差しをこちらに向ける。私に、余計なことは一切は話すな、と牽制しているのだ。
「土橋さんもお子さんが出来て、私生活も充実しておられるとか。羨ましい限りです」
それは速人の本音?
どういう意味?
表情からは何も読みとれず、彼を邪推するしかない。
光太郎はと言えば、気まずそうに頭を下げて固まったままだ。
ここで間違った発言はしたくないのだろう。
彼は、親同士の取り決めた相手であった婚約者の速人から、千加を奪った男だった。
「千加さんが幸せならば何の問題もない。……それに、僕には彼女がいる。違いますか?」
速人は気の聞いたジョークでも飛ばしたかのように、クスッと笑い声を立てた。
光太郎は言葉に窮したものの、もう一度頭を下げると暇(いとま)を告げた。
私だけに、そっと苦笑を浮かべて。