純愛は似合わない
先ほどまで纏っていた穏やかオーラを脱ぎ捨てた速人は、いつものクールな彼に戻って、光太郎と入れ違いに仲居さんが持ってきた天麩羅をつまんでいる。
食欲の失せた私は、天麩羅を食べる振りをするだけで、一向に箸が進まない。
何だったんだろう、さっきのは。
光太郎と千加ちゃんを祝福したかったのだろうか? それは唐突で今更なことだけれど、この5年の月日、殆ど日本にいなかったことを考えればそういうことなのか。
でも。
あんな言い方をしたら、光太郎は確実に私達が結婚すると誤解したに違いない。
ああ、でも。千加ちゃんは安堵する?
「気に入らない」
速人がちらりと私の皿を覗いた後、溜息を吐いた。
「さっきから箸で突いてるだけで全然食べてない」
「……何か胃もたれ」
私の言葉に速人は片眉を上げた。
「ああ。早紀ももうすぐ27だからな。その上、酒ばかり飲んでたら内臓も年を取る」
嫌味か。
胃もたれの原因のくせに。
「自分だって30を超えたおっさんじゃない」
「……初めて会った時は、坊主とイチャつくくらいの中学生だったのにな」
「だから、イチャついてたんじゃなくてっ。その時は多分、慰めて貰ってたんでしょ……母が亡くなったばかりで…少し不安定だったから」
彼の言う坊主とは私の初カレだった同級生の話しだ。
6歳も年上の速人にしたら全くの子供に見えたのだろうけれど、クラスの中では大人っぽいグループにいた男の子だった。