純愛は似合わない
「あーうん。そうかもね」

瀬戸課長は私の中では、かなり面倒くさい人なので、それ以外に返事のしようがない。

まさか課長だって、ふりかけ1つで『貸した』なんて言わないだろうけど。

それにしても、久しぶりにふりかけご飯なんて代物を口にした。

「そうかもねって、自分の上司なのに」

珍しくイラッとした口振りの里沙を横目で見れば、彼女はカレ―用のスプーンで、大きな唐揚げをすくおうと苦戦していた。

その姿が可笑しくてつい笑ってしまう。

「何よ、早紀ってば。笑い過ぎ」

この娘(こ)といると力が抜ける。これで、仕事は出来る女なのだから、なんたるギャップだ。


「タマ―。さっきから見てりゃ、唐揚げ1つ食べるのに何分かかってんだよ」

食べ終わった食器を持った笹山が、通りしなに声を掛けていく。

「食わせてやろうか?」

私達の席の前で立ち止まり、ニヤリと笑う悪魔に里沙はムッとした顔をする。

「何恥ずかしいこと言ってるのよ」

「お前、上手に食えない方が恥ずかしくねぇの?って、そのトッピング何」

「煩いな、早紀に貰ったの。ちゃんと食べるもん」

ようやく私の存在に気付いたらしい笹山がこちらを向く。

「成瀬、タマに餌付けしてんのかよ」


この男からは速人と同じ空気を感じる時がある。

だから時たま、訳もなく絡みたくなるのだ。

「そうね。美味しそうなくらいになったら、どこかの国の腹黒に売り飛ばそうと思って。その方が高く売れるでしょ」

笹山の形の良い眉がくいっと上がった。

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