純愛は似合わない
私が身動ぎしたせいで、彼の目がうっすらと開いた。

先ほど外した速人の手が、ゆっくりと私の頬を伝う。

寝惚けたままの瞳には誰が映っているのか。

それが怖くて目を伏せる私も乙女じゃないのと、自嘲した。


「……熱、下がったみたいだな」

いつもよりハスキーな低い声が耳元で聞こえる。

いつになく優しい声色に負けてしまわないように、私はぎゅっと目を瞑った。

「早紀……おやすみ」

おでこに柔らかなキスを受けた後、それと同じ感触が肩に押し付けられた。

親しみさえ感じせる行為に涙が出そうになった。

これじゃ、単なる情緒不安定な女だ。

朝になれば、いつも通りの自分に戻れるはず。

……もう一度眠ろう。

隣で眠りに落ちる彼と呼吸を合わせ、私もまた夢の世界へ戻った。










< 63 / 120 >

この作品をシェア

pagetop