純愛は似合わない
それにしたって、ヒロにとってモートンホテルは、鬼門では無いのか。

彼のいた店舗とは違えどモートン社員にも転勤はある。ヒロと既知の者だっているだろうに。

退職を余儀なくされたこのホテルで、何しちゃってるわけ?

疑問が次々と膨らむが、今は問いただすことも出来ず何とも歯痒い。


「早紀ってば、今日も素敵じゃない」

背後から声を掛けて来た同期の里沙は、黒い膝丈のワンピースにボレロタイプのカーディガンを羽織っただけの『ザ・無難』である私を誉めた。

そんな彼女も特にめかし込むことはせず、チャコールグレイのパンツスーツ。
まさに普段通り、出来る女の出で立ちだ。

彼女の手にはローストビーフが盛られた皿がしっかりと握りしめられ、嬉しそうにニコニコしている。


……単純な奴め。


近くでは、里沙のチームリーダーの高松さんが経理課の人達と談笑していた。

「あれ。あんたの相棒は?」

酒席では 『俺の女避け』と称しながらも、その実は番犬よろしく里沙の近くをキープする笹山の姿が見当たらない。

「笹山のこと? よくは知らないけど急な用事みたいでさ、ドタキャン」

里沙は、不満気に唇を尖らせた。

友野の血縁であることを隠している笹山には、厄介でしかない行事、か。
欠席は笹山なりに考えての行動なのだろう。


「今、里沙達は忙しい波なの?」
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