純愛は似合わない
クスクス笑いながら、くだらない話しをしていても、私の目はいつの間にか速人を視界の片隅に入れてしまう。
そこには、さりげなく寄り添い離れない、敷島紫の姿も漏れなく付いて来た。
速人は社長として社員の間を渡り歩き、積極的に声を掛けているようだ。後ろには微妙な表情の松中さんを従えて。
松中さんも、やりにくそうだわね。
なんて、こんなところでつい観察してしまう自分って何だか、可笑しい。
里沙がチームリーダーの近くへ戻った後、私も営業課の3人組と別れた。
ドリンクでも取りに行きたいところだが、少し歩けば呼び止められ他の部署の人達と言葉を交わす、の繰り返しで一向に辿り着けない。
専門職の里沙と違って、私の仕事は事務職で、いわゆる雑務が大半を占める。
色々な人物と接する機会が多いので、顔見知りが多いのは当たり前ではあるけれど。
久々に着けた腕時計を見ると、会が始まってからようやく1時間経過。
まだ、先は長い。
ほろ酔いの経理部長の話し相手をし、張り付いたままの笑顔がそろそろ固まりそうだと思った頃、すっと目の前を影が横切った。
どうぞ、とウィスキーの水割りが1つだけのったトレイを差し出す、洗練された無駄のない動き。
間違いなくヒロの腕だ。
「成瀬様、上司が少し……。お客様、申し訳ございません」
あんたの上司って誰よ、ヒロ。
勿論何も知るはずもない部長は、ウィスキーを受け取ってご機嫌な様子。
行っておいで、と軽く手まで振られた。
……長話しに付き合ったのに、私はウィスキー以下か。