純愛は似合わない
穂積さんは、私が関わったからと言いたいのか。

父とまともに口を利いたのは、いつ?

ああ、そうか。
再婚の話しを聞いた時、あれが最後だったかしら。

忘れてしまうくらい、今は遠い存在。


「フン。お嬢は素直じゃないからな。頑固なところまで親父さんにソックリだ」

父の旧友でもある穂積さんの言葉は容赦無い。

ミントの薫るカクテルをくいっと煽り、上目遣いに穂積さんを見た。

「この年でお説教とか嫌になるわ」

それも、こんな場所でヒソヒソ話し。

「誰かが言わなきゃならんことだよ」と穂積さんは不敵に笑うけれど、願わくば穿り返されたくない。

「なぁ、そう思うだろ。坊ちゃん」

坊ちゃんなんて、穂積さんがふざけて呼ぶのはただ1人。

会場に背を向けていたのが仇になったらしい。
今まで上手く、速人の目に触れないように避けて来たのに。

私は振り向くこともせず1歩右横へ体をずらして、穂積さんの正面を速人に譲った。

「坊ちゃんは止めて下さいよ、穂積さん」

苦笑を含んだ低い声が、頭上で響く。

「社長さんを速人君なんて呼べないさ」

「父のこと、会長なんて呼んでいないでしょう」

軽口を言い合う2人。
そう、私の父も速人の父も穂積さんとは学生時代からの付き合いなのだ。

「最近は滅多に会わないからなぁ、俺はリタイアしちまったし」

「あら、こちらのホテルの方では無いんですか?」

失礼にはならない程度の物言いで、速人を挟んだ反対側にいた敷島紫が尋ねる。
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