純愛は似合わない
速人の予言めいた言葉通り、友野ソリューションで働き始めたことで、私は私自身を取り戻し始めた。

新入社員として組織を覚え仕事に追われる、それだけの充足感。


最初の2年位は速人も、何度か帰国する時間があった。

昔ほど柔らかな笑顔を向けられることはなくとも、普通の恋人同士のように過ごしたあの時が、一番幸せだったのかもしれない。



会社にも慣れて職場の先輩方とも親しくなると、色々な過去の出来事や社内恋愛の話しなどが世間話のように耳に入ってくる。

それは社長の息子、速人も例外では無い。

敷島紫との関係が有名人のゴシップ記事のように聞こえて来るのは避けようが無かった。

誰かが『敷島さんは帰国子女で、弁護士の資格も大学在学中に受かる様な才女だ』と、羨望の溜息交じりに言っていた。

そして自信に溢れた彼女は、他の誰もが遠巻きに見ていた速人に堂々とアプローチしていた、とも。

だから、彼女をアメリカに連れて行ったのは、その能力もさることながら速人が彼女に陥落したからでは無いのか、と言うのが先輩達の専らの見解だった。

敷島紫自身も、その噂を助長するような行動を取っていたのだから当然だ。

例えばちょっとした飲み会で。
敷島紫の同僚だった先輩が、彼女から送られた写真付きのメールを披露する。
すると、その中に速人の姿を見掛けたり。

完全なオフショットではないかと思う様な写真が、私の心をブルーにする。

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