豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


「なっ、どういう?」


光恵の心臓は、もう壊れる寸前まで、ばくばくと動いている。
胸に手を当てて、深呼吸しようと息を吸ったところで、「あ、待って!」と、閉まりかける扉が再び開いて、今度は白鳥先生が乗り込んで来た。


「ありがとう、間に合った」
白鳥先生がボタンをおし、エレベーターが動き出す。


「あれ、皆川先生、顔真っ赤。どうしたの?」
「ちょっと、あつくて」
光恵は笑ってごまかした。


白鳥先生は特に疑う様子もなく「そうだ、正規講師の話、受けた?」と訊ねて来た。


「いえ、まだ」
「そう。わたしは皆川先生、向いてると思うけどな。来てくれたらうれしいし」
「ありがとうございます」
「でも先生が今のお仕事を辞められないのもわかる」


白鳥先生はそう言うと、うっとりとした表情をした。


「だって、職場に佐田孝志。幸せよ」
「そうですか?」
「そりゃそうよ。でも不幸だとも言う」


白鳥先生がまじめな顔でそう言うので、光恵は「どうしてです?」と訊ね返した。


「だって、絶対に手の届かない人よ。でも近くにいたら気にする。彼を見たら、他の男性は目に入らなくなる。叶わない恋に時間を使うのはもったいないじゃない。自分が惨めにもなるし、ね」


白鳥先生はそういって笑った。


確かに、さっきの孝志には、慌てさせられた。まだ胸がじんじん痛い。「太ってやる!」と叫んだ男には見えなかった。


「じゃあね」
白鳥先生がエレベーターを降り、クラスに入って行く。


光恵はなんだかふわふわとした気分のまま、エレベーターを降り、授業を始めた。

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