豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~
口を押さえつけられた。
「俺がこわい?」
薄暗いアパートの廊下で、見知らぬ男は笑っていた。本当に恐ろしい思いをした時、人は声を出すことができない。身体中に自分の悲鳴が響き渡っているのに、深夜の静寂が自分の耳に届くだけ。
光恵は恐ろしいのに目を閉じることができない。男は怖がる光恵を見て、楽しんでいるようだった。
もう終わりだ。
光恵があきらめかけた、次の瞬間。
男が横に吹っ飛んだ。
大きな音が廊下に響き渡る。
光恵は固まったまま、転がった男を見おろした。
「ミツ、大丈夫?」
耳元で声がしたので見上げると、孝志がそこにいた。
男がもぞもぞと起き上がる。孝志は弱っている男の腕を引き上げて、殴られて真っ赤になった頬に、ぐっと顔を寄せた。
「ミツにさわんな」
孝志は男を突き放して、おまけに蹴りまで入れて、追い出した。男は無惨にも再び道路に転がる。よろよろと起きて、一度口惜しそうに振り返ったが、勝てないと分かったのか、道路を走って逃げて行った。