豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


電車を降りて、稽古場に向かった。
風は冷たいが、空気の中に春の兆し。もうすぐ四月がやってくる。


「輝くん、なんともないの?」
「はい、俺、お酒強いんです」
「へえ、まだ二十歳ぐらいだよね?」
「もうすぐ二十一」
「その歳で、飲み過ぎじゃない?」
「ミツさんに言われたくないですよ」
輝が笑う。


「はい、すいません」
光恵は素直に謝った。


短い髪をブラウンに染めて、緩いデニムを腰で履いている。目はくりくりと丸く、かわいい感じだが、これが舞台の上となると豹変する。役者とは面白い生き物だ。


「輝くん、面倒見がいいんだね。こんな厄介な女に付き合って」
「でも、俺、割と冷たいんですよ。どうでもいい人は放っておく。大事な人はすごく大切にする。はっきりしてるんです」
輝が言う。


「ミツさんは大好きだから、大切にしてみました」
輝のそのいい方が面白くて、光恵は思わず笑った。輝はそんな光恵を見て、うれしそうな顔をする。


「笑ってた方がいいですよ。いい女だ」
輝が言う。


「若造が、何いってんだ」
光恵は輝の背中をバンと叩いた。


不思議なことにだんだんと楽しい気持ちになってくる。
酒に飲まれるのも、そう悪くないかも。
たまには。


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