10円玉、消えた
幸子が怒りの表情に変わる。
「竜太郎、お前には前から継がなくていいって言ったはずでしょ!こんな店、サッサと人に譲っちまった方がいいんだよ」

「母さん、それ本心かい?」

「当たり前だろ、でなきゃカッちゃんに譲ろうなんて考えるもんか」

「カッちゃんに熱入れすぎてんじゃないの?」
竜太郎はボソッと言った。

「え?いま何て言ったの!」
幸子が睨みつける。

「何でもない。テスト近いから、俺もう部屋に行くよ」
そう言って竜太郎はスクッと立ち上がった。

「ちょっと、竜太郎!」

「さっきの話はまだOKしたわけじゃないからな。二人で勝手に決めないでくれよ」
最後にそう言って竜太郎はスタスタと二階へ上がっていった。

「竜太郎、話しはまだ終わってないよ!」
幸子の声が響く。

だが竜太郎はそれを完全に無視した。



ダメだ。
もう母さんはカッちゃんに入れ込みすぎている。
“勝手に決めるな”てさっき言ってやったけど、たぶんそんなのは聞かないだろう。

よし、こうなったら先回りだ。
カッちゃんに直接言うんだ。
母さんから頼まれてもまだOKしないでくれって。
それしかない。



竜太郎は早速行動を開始した。



< 106 / 205 >

この作品をシェア

pagetop