10円玉、消えた
杉田は当然驚いた表情を見せる。
「お、リュウちゃんか。どうした?」

「ごめん、カッちゃん。こんな時間に」

「全然構わねえよ。またLPでも借りに来たのか?」

竜太郎は小さく首を横に振った。
「ちょっと相談したいことがあって…」

「まあ入んなよ」



雑然とした六畳の部屋。
隅には折り畳まれた布団、中央には炬燵テーブルだ。
一本のビール瓶と飲みかけのグラスが置かれている。
映りの悪い小型TVがニュース番組を流していた。

「なんかジュースでも飲むかい?」
と杉田が聞く。

「いらない。それよりカッちゃん…」

竜太郎がいきなり本題に入ろうとしたたため、杉田は慌ててTVを消した。

竜太郎はそのまま話しになだれ込む。
「実はさ、さっきお袋が店をカッちゃんに譲りたいって言い出したんだよ」

杉田は再び驚いた顔を見せた。

竜太郎は更に続ける。
「俺、最近『らあめん堂』を継いでみたいなって考えてるんだ。だからお袋にそんなことしてほしくなくて、それで…」

「うん、リュウちゃんの言いたいこと、わかるよ。つまり俺に、女将さんから話し来ても断ってくれってことなんだな」

竜太郎は無言で頷いた。


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