10円玉、消えた
すると杉田は笑みを見せて言う。
「大丈夫だ、リュウちゃん。俺、元々『らあめん堂』を自分の店にする気はこれっぽっちもないから」

「ホントに?」

「そんなの嘘ついてどうする。いまはコツコツ金貯めて、いつかはちゃんとした自分の店を持つのが俺の夢なんだ。他の人の店を引き継ぐんじゃホントの自分の店って言えないもんな」

途端に竜太郎は安堵の表情を浮かべる。
「よかった」

このとき竜太郎は、ついでに母との関係を杉田に確認してみようとも思ったが、話しが長くなりそうだったのでやめた。
いまは長居は無用なのだ。

「あ、そうだ。カッちゃん、これ預かっといてくれる?お袋には、ノートを返しに友達んとこに行くって言って出て来ちゃったから」
そう言って竜太郎はノートを炬燵テーブルに置いた。
本当は単なる落書き帳である。

「OK、お安い御用だ」

「それから俺が今日ここに来たことは、お袋には内緒にしといてくれる?」

「わかってるって、そんなこと」
ノートを使ってアリバイ工作をしたことで、杉田にはすぐ理解できた。

「ありがとう、カッちゃん」

「よせよリュウちゃん、そんな堅っ苦しい」

間もなく竜太郎は101号室を出た。



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