10円玉、消えた
竜太郎は眉を寄せ、低い声で聞く。
「どういうことだよ、それ」

「どういうっていま言ったまんまのことよ」

竜太郎の心に怒りがこみ上げてくる。
「冗談じゃない!だいいち二人で勝手に決めるなって言っただろ!」

幸子はほとほと呆れ果てた。
「あんたねえ、ここんとこ全然手伝いやらないし、店を継ぐことも全然真剣に考えてない。そんなんで勝手に決めるなもないもんだ」

「そんなのこじつけだ!約束破りには変わらないじゃないかよ」

「あのねえ、こっちだって何もお前の気持ちを無視したわけじゃないの。秋頃一度聞いたよね、店継ぐつもりなのかって。そしたらあんたは“そんなのまだわからない”て言ったんだよ」

「たったそれだけで勝手に決めたのかよ」

「あのとき丁度カッちゃんに物件の話があってね。でもまだお金が充分貯まってなくて。大きな借金抱えてまでそこに店を出そうかどうしようか、カッちゃん悩んでたんだよ」

「それと店譲るのとは関係ないだろ」

「関係あるんだよ。このまま普通に給料貰ってるより、経営者になった方がずっと儲けがいいからね。そうすりゃカッちゃんだって早く他で店が出せるじゃないか。だから店譲ったんだよ」



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