10円玉、消えた
その言い方に、竜太郎は怒りを通り越して呆れ返った。
「30年も待ち続けてたのが苦労だと思ってないなんて、他人事だからそんなこと言えるんですよ」

「おやおや、だいぶわしに呆れとるようじゃの。まあいい。どう思ったってそれは君の自由じゃ」

「気分が悪いですよね。まるで俺たち親子をもてあそんでるみたいで」

「竜太郎君、わしのことより肝心なのは、まず君自身のことじゃ。とにかく“大事なこと”をよ~く思い出してみることじゃよ。ではまたな」

またもや電話が一方的に切られた。



一体何なんだ?あの爺さん。
いつも答えをハッキリと言わずにはぐらかす。
今度は“大事なこと”だと?

とにかくあの爺さんにゃ、最初から振り回されっ放しだ。

10円玉占いをさせ、その結果を知ってても敢えて言わず、将来は結局自分で決めるものと説く。
そうしておきながら、30年以上経ったいまになって結果を無理矢理教え、その結果通りの方向に強引に行かせようとお膳立てする。
でも肝心なことはハッキリと言わない。

昔父さんは、おちょくってるとしか思えないそうしたやり方にヒドく腹を立て、爺さんを憎んだ。
その気持ちは当然だ。

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