10円玉、消えた
15のときに初めて会った際にはヘンな爺さんだと感じたが、充分信用できる人だと思った。
だがいまは違う。

あの爺さん、まるで俺たち親子を引っ掻き回して楽しんでいるようだ。
俺も父さんも、とんでもない疫病神に祟られてしまったのかもしれない。



するとまた、携帯が鳴った。
今度は会社からである。
出ると部下の倉本だった。

「部長すいません、お休みのところ」

倉本の焦ったような口調で、何かトラブルが発生したんだな、と察知する。
竜太郎の頭は即座に営業部長モードに切り替わった。

「そんなの構わんが、どうした?」

「新風堂向けのサマーキャンペーンの件なんですが、本部の関谷部長がゴネてるんすよ」

「ゴネてる?どういうことだ?」

「価格条件が悪いと。この条件だと全店でのコーナー展開はできないって言うんです」

「その条件で承諾したはずだろ」

「それがいまになって急にそんなことを言い出したんです。で、関谷部長は“笠松部長に直接連絡をもらいたい”と」

はは~ん、なるほど。
きっとバックマージンのことなんだな。
竜太郎はピンときた。

「わかった、すぐに電話する」

「すいません、お願いします」



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