10円玉、消えた
やがて竜太郎は関谷と無事話しを済ませ、サマーキャンペーンは当初の予定通り、新風堂全店で展開する確約をもらった。

こうした駆け引きは竜太郎はうんざりだったが、ビジネスにはつき物。
特にこのかなり厳しい現状では、量販店の新風堂でのサマーキャンペーンは、なんとしても展開しなければならない一大戦略だ。

映像ソフト業界の厳しい状況はまだ続くであろう。
いや、より一層悪化する可能性が大だ。

こんな時期に、俺が勝手に会社を辞めてしまっていいのだろうか？と竜太郎は考える。
しかも、部下たちが大きな商談を成立させるまでにはまだ成長していない。
入れ替わりの激しい業界だけに、人材がなかなか育ち難いのだ。

自分一人だけの問題ならもっと安易に考えられる。
しかし、会社や他の社員たちにも大きな影響を及ぼしてしまう。
自分の地位がどうの、自分の決めた道じゃないからどうの、そんな呑気なものではないのだ。

竜太郎は頭を抱える。
ラーメン屋への決意が遠のいていくのを感じた。



何てことはない。
答えを求めにこっちに来たのに、これじゃ益々わからなくなってしまっただけじゃないか。
ホントにどうしたらいいんだ、俺は。



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