10円玉、消えた
悩んだとき、竜太郎の訪れるところはやはり『黒部サイクル』である。
公園のベンチに座ったまま散々悩んだ挙げ句、隣り町のショッピングセンターまでフラフラと出向いた竜太郎だったが、結局は『黒部サイクル』に来てしまった。

昔から俺は何かと言うと、タカさんタカさんだ。
成長してないんだな。
竜太郎は思わず苦笑する。



「リュウちゃん、どうも。一昨日から来てたんだってね」
出迎えたのは黒部の妻・多恵子である。

「多恵子さん、いつも母のこと気遣ってくれてありがとう」

「何言ってんの、そんなこと。さあ入って入って」

竜太郎は奥に通された。
その日、黒部は珍しく事務所で伝票整理をしていたのだ。

「リュウちゃん、親父さん帰って来てホントよかったな」
黒部はニコニコ顔で言う。

竜太郎は父親のことは、すでに一昨日電話で黒部に伝えてあった。

「昨日わざわざ挨拶に来てくれてさ、スゴい元気なんでビックリしたよ。いや~よかったよかった。これでお袋さんも安心だな」
黒部はまるで自分のことのように喜ぶ。

「俺もあの若さにはビックリさ。ずっとラーメン作りをやってていまでも現役なんだってさ」

「へぇ~、大したモンだ」



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