10円玉、消えた
「てことは、そのときあの爺さん、タカさんにも10円玉占いをすすめたのかい?」

「ああ、“出た面に従えば成功する”てな」

「で、結果はどうだった?」

「俺はやらなかったよ。占いなんか興味ないからって断ったんだ。爺さん“それじゃあ仕方がない”て言って去ってったよ」

「なんで断ったんだい?あ、タカさんはもう自転車屋を継ぐって決めてたんだっけ?」

「いや、あんときゃまだ決めてなかった。結構悩んでた時期だったよ」

「あれ?タカさん、確か昔俺に“将来のことなんて悩まなかった”て言ってたよな」

「ハハハッ、よく覚えてるな。ありゃな、リュウちゃんを余り悩み込ませないようにって思って、とっさに嘘をついたのさ」

「そうだったのか」
竜太郎は苦笑する。

「とにかく俺は占いには全く興味がなかったし、結果知ったらヘンに意識するだろ。それが嫌だったんだ」

「もし占いやってたら何が出たかね」

「さあな。まあ自転車屋じゃないことは確かだ。いつまでもこんな寂れた店やってるくらいだからな、ハハハッ」

黒部の笑顔を見ていると、竜太郎は不思議と元気が湧いてくる。
昔もいまもそれは変わらない。


< 176 / 205 >

この作品をシェア

pagetop