10円玉、消えた
帰りの電車は倉本だけ別の路線だ。
竜太郎と白川は途中まで一緒である。

車内が比較的混み合っていたため、二人はドア付近に立って話しをしていた。

「部長のご実家って静かなところなんですか?」
と白川が聞く。

「そうだな。ド田舎ってわけじゃないけど、寂しい小さな町だよ」

「でも長閑でいいだろうな。私、生まれもこっちだから、こんな人混みにはウンザリなんですよ」

「でも若いうちからあんな町にいたら老け込んじゃうよ。ずっと地元に住んでる同級生のヤツらなんか、みんなオッサン臭いもんなあ。パンチパーマしてるヤツも何人かいるし」

白川はクスクスと笑った。

少しの間ができた後、竜太郎が言う。
「この前はすまんな、ヘンな電話しちゃって」

「いえ、そんな。私の方こそ、部長が落ち込んでるときに全然力になれなくて。かえってすいませんでした」

「君が謝ることないさ。あ、退社を決めたのは女房と別れてヤケになったんじゃないからな。心配するなよ」

「部長はそんな人じゃないって思ってますから大丈夫です」
白川は笑みを見せた。

「俺がいなくても頑張れよ。倉本と仲良くな」

やがて竜太郎は先に下車し、別の路線に乗り換えていった。

< 194 / 205 >

この作品をシェア

pagetop