10円玉、消えた
源太郎の突然の家出により、老人の描いたシナリオは完全に崩れた。

『らあめん堂』に杉田がやって来て、幸子が杉田と関係を持ち、彼に店を譲る。
そのため、ラーメン屋に見切りをつけた竜太郎は漫画家を目指す。
シナリオにはない、全く予定外の展開であった。

それでも老人は第2のシナリオを思い描いた。
竜太郎が推察した通り、漫画家を断念した時期と、杉田が丁度店を手放した時期が重なったのがそれだ。

しかし竜太郎は店を継がず、そのシナリオも空振りに終わった。

こうしてまさに、途方もない遠回りとなってしまったのである。

「じゃがわしは、間違った道を歩んでいても、頑張ってる者をムゲにはせん。お父さんにチャンスとパワーを授けたようにな」

「おかげ様で父は物凄く元気です。おまけに母も元気で…あ、ひょっとして、三間坂さんは母にもパワーを?」

「ハッハッハッ、お父さんが家に戻っても、お母さんが老いぼれてたら気の毒じゃろ。二人にはまだまだ元気でいてもらわねばのう」

「ありがとうございます。二人ともこれで充実した余生を送れます」

「30年という空白を少しでも埋められれば、それに越したことはないからの」


< 199 / 205 >

この作品をシェア

pagetop