10円玉、消えた
「しまった!」

竜太郎は急いで10円玉の行方を追い、雑草を掻き分けて探し回る。
しかしいくら探しても見つからなかった。

陽がすっかり落ち、辺りが益々暗さを増したため、探し出すのはもはや殆ど不可能。
公園の頼りない外灯では何の役にも立ちそうになかった。

「す、すいません」
バツが悪そうに、竜太郎は老人に頭を下げる。

「いや、わしの方は一向に気にする必要はない。まあやはり、気乗りせんままにやったのがまずかったかのう」

「すいません、もう一回やらしてもらえませんか。今度はちゃんとやります」

「残念じゃな。この占いは一人につき一度きりしかできんものなんじゃ」

「そうだったんですか…まあいいや、どうせラーメン屋か会社員のどっちかでしか成功しないんですから」

「それはもう気にしなくてよい。その二つはあくまでわしの頭に浮かんだものにすぎんのじゃから」

「じやあそれ以外にも成功する道はあるんですね」

「さよう。肝心なのは君自身がこれからの道をどう切り開いていくかじゃ。他人に決められた道をただ歩くなんて、君だって嫌じゃろ」

「はあ…」
竜太郎は実に歯切れの悪い返事をした。

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