10円玉、消えた
なんだ、結局は将来のことは自分で決めろ、か。
だったら何も占いなんてする必要がないじゃないか。
この爺さん、自分から言い出したくせに、随分と勝手な占い師だよなあ。



竜太郎の心の中はすっかりドッチラケ状態だ。

老人はふと取って付けたように言う。
「おやおや、もうすっかり暗くなってしまった。ではボチボチ帰るとしよう。達者でな、竜太郎君」

「どうも」
竜太郎は軽く頭を下げた。

そして老人は、竜太郎の家とは全くの逆方向に歩き去っていった。
さすがに若者ほどスタスタと歩くわけではないが、その年齢にしては足の運びが実にスムーズで、驚くほどしっかりしたものだ。

だがそのときの竜太郎には、老人の若々しさを感心する気持ちなどなかった。
ただただ呆れていただけである。



ホントにヘンな爺さんだ。
いい気なモンだな、まったく。
あ~あ、こんなことしてるくらいなら、サッサと家に帰って漫画の続きでも読んでりゃよかった。
時間の無駄使いをしちまったな。



腹の中で愚痴りながら、竜太郎は家路に着く。
ただ気になったのは、消えた10円玉の行方と、果たしてどちらの面が出ていたのだろう、ということであった。



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