10円玉、消えた
源太郎は鬱陶しそうな表情になった。
「何がだ?」

「その詐欺師とかいうお爺さんによ」

「あんな爺さんに引っ掛かるわけねえだろ」

「ホントに?」

「クドいな。聞こえねえのかよ」

お決まりのバトルになりそうな流れである。

幸子は食い下がる。
「あんたホントは騙されたのに、それを隠してるんじゃないだろうね。借金作ってたって、私ゃもう知らないよ」

「うるせえ!騙されてねえって言ってるだろ!」

やはりバトル勃発!

…と思いきや、源太郎はすくっと立ち上がり、足早に風呂場へと消えてしまった。
どうやら今回はそれ以上になりそうもない。

無論幸子は何かあるな、と勘ぐっていた。
女のことも含め、いつかはハッキリとさせねばなるまい。
当然源太郎が素直に話すはずがないとは思うが。



暗闇の中で10円玉を指でピーンとはじく。

頭上に舞う10円玉。

しかしそのまま闇へ引き込まれ、10円玉は一向に落ちてこない。

あれ?どうなってんだ?

いくら待っても現れない。

お~い、どこ行っちまったんだよ。

叫んでも虚しくこだまするだけ…



竜太郎はハッと目を覚ます。
外はすっかり明るくなっていた。

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