10円玉、消えた
「え、なんで?」

「ありゃ詐欺師なんだ」

「詐欺師?」
竜太郎の声がひっくり返る。

幸子は途端に険しい顔で源太郎を睨みつけた。

その視線に気づかぬフリをして、源太郎が竜太郎に言う。
「そうだ。だからあの爺さんの言うことは信用しちゃいけねえ」

「父さんは騙されたことがあったのかい?」

「いや、危うく騙されるとこだった。まあとにかくあんな爺さん、絶対相手にするな。わかったな」



確かに得体の知れない爺さんだ。
でも詐欺師だって?
あの優しそうなニコニコ顔は、全然そんな風には思えないけどなあ。
だいいち“占いをしてあげよう”て言っただけで、金を騙し取ろうとかそんな感じじゃなかった。
騙すつもりなら、普通はどっかに連れてこうとするんじゃないか。
でも辺りが暗くなったんでスタスタ帰ってったもんなあ…



納得いかない竜太郎だったが、いまは見とりあえず父親の忠告を素直に受け止めるフリをした。

「うん、わかった。気をつけるよ」
そう言って竜太郎は二階の自分の部屋へ戻っていった。



待ってましたとばかり、ずっと黙っていた幸子がいきなり口を開く。
「あんた、ホントに騙されなかったんだろうね」

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