yellow flower


しばらくして落ち着いた菜波は、笑顔で「ありがとう」と言ってきた。


菜波とわかれて、帰路につく。

家に着くまで、恋のことを考えていた。


今あたしには好きな人なんていないし、菜波のように泣くほどの恋をしたこともなければ、付き合ったこともない。

告白をされたことはあるが、それも小学生の頃の話。

比較的誰とでも話すが、男子とはそんなに深い仲になるほどの付き合いをしているわけではない。

つまり、中2にもなってなんの経験もない。
改めてそんな自分を思い浮かべると、少し哀れになった。



「三谷?」


哀れな自分に浸っていると、突然自分の名前を呼ばれた。

「お、やっぱ三谷だ」

すぐに振り返ると、そこには1年のときに同じクラスだった、澤村彰がいた。

「澤村」

「さっき玲と一緒にいただろ?」

「ああ、うん。何で知ってんの?」

「今、信と玲に会って、そんとき玲が言ってたから。」

今更だが、信とは中浦のことだ。

「まじか。てか澤村って、玲って呼んでるんだ」

「うん。なんで?」

「…なんとなく。珍しいなーって思ってさ」

「なに、三谷も名前で呼んでほしいの?」

なんでそうなるんだよ、とつっこもうとすると、澤村は先に話し出した。

「なんてな。俺は玲以外、女子のことは名前で呼ばない」

その言葉に、何だか少し悲しくなった。

「なんで?」

「女子は特別な奴しか名前で呼ばない」

何かが突き刺さるような感覚を覚えた。

「…そうなんだ。じゃあ玲は特別なんだ?」

「まあな。」

「…でも玲、中浦と付き合ってるじゃん」

思うよりも先に、皮肉のような言葉がでた。

「別に、好きとかじゃないし。そういうのは関係ない」

不思議なことに、心の靄が消えた。


しばらく話して、澤村とわかれて、家に帰った。


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