甘い唇は何を囁くか
シスカ、泣きそうな顔してる。

私だってそうだよ。

けど、さっきまで泣いてた涙を何とかひっこめて、一生懸命堪えている。

シスカを―困らせたくない。

「すぐだよ。2・3日死にそうになったらすぐ噛んでもらう。そしたらヴァンパイアになって、シスカのとこに戻ってくるよ。」

そう言って微笑んでポーチだけ引っつかんだ。

「そしたらさ、一緒に宗眞をやっつけに行こうよ。私もそのときにはあいつのこと大っ嫌いになってるんだし。」

シスカは何も言わない。

何も言えないんだろう。

「あ、でも日本には一回帰るね。いろいろ手続きしてこなくっちゃ。シスカの国籍ってどこなの?そういう話もしないとね。」

ふふって笑ってそれからシスカを見つめた。

泣いてはだめ。

シスカのもとに、すぐに戻ってくるんだから―。

「・・・愛してる。」

私の涙の城壁は脆くもその言葉だけで崩れ去ってしまった。

ぼろぼろに泣いて、シスカのもとに駆け寄った。

抱きしめて、口付けて、えんえんと声を上げて泣いて言った。

「愛してるよ、私も、シスカしかいらない。」

ってそれを繰り返して。

シスカも同じ言葉を繰り返し、キスをくれた。

抱きしめ合って、それでも足りないのは分かってる。

泣きじゃくりながら、シスカの身体から逃れて言った。

「すぐ戻るから。」

返事を待たずに駆け出した。

振り返る勇気はなかった。

< 146 / 280 >

この作品をシェア

pagetop