甘い唇は何を囁くか
遼子の決意は固い。

それに気付いていながら、遼子の意志を変えることもできなかった。

いくら、身体を確かめても―

つながることはできない。

「何とか言ってよ」

震える声で泣きじゃくりながら言われて、シスカは胸を押しつぶされそうだった。

顔を見ることもできない。

ただ、きつく抱きしめる。

離したくない。

行かせたくない―。

なのに・・・

この腕の中に閉じ込めたまま、このまま―。

シスカが腕の力を弱めると、遼子はずるりと這い出るようにしてその腕から逃れた。

ふたりで見つめあったまま、呆然となる。

泣いているのは、どうしようもないから。

どうすることもできないから。

「次に・・・あいつに逢ったとき、俺はあいつを殺すかもしれない。」

「ふふ・・・。」

「お前を噛む時には・・・俺も呼べと言っておけ。」

・・・

「うん、分かった。」

遼子が立ち上がる。

それから、散らばった衣服を見つけ出して、もう一度袖を通し始めた。

「今、行くのか・・・。」

遼子は振り返らずに答えた。

「うん、決意・・・鈍らせたくないから。」

「そうか・・・。」

ワンピースにジーンズを履いたのはせめてもの抵抗かもしれない。

行きたくない。

遼子はふうと息を吐き、振り返った。

「じゃあ、行くね。」
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