甘い唇は何を囁くか
シスカの冷たい視線を受けて、女たちは少し怯んで目を伏せた。

「ね、やっぱり無理なんじゃない?」

「何、言ってんの。マジこんな美形と出逢うチャンスなんて、もう二度と巡ってこないよ?」

その言語には覚えがある。

ふいに脳裏に昨夜注意を促したあの子供の顔が浮かんだ。

日本人か―。

「もう、あんたが無理でもあたしは絶対キメるからね!」

そう言い置いて片言の聞き取りにくい英語で話しかけてくる。

「アイ、ウォンチュードリンク…、ん~一緒に…えっと何て言うんだっけ?」

「え、わ、分かんない。翻訳アプリは?」

「あ、そっか!」

二人の女は、慌しく目の前で顔を赤らめて右往左往としている。

シスカはグラスを置いて言った。

「ホテルはどこだ?」

思いもよらず、母国語で返された女2人は目を丸くして言葉を失っている。

唇についた水滴を拭い繰り返す。

「どこだ?」

「あ…レイモント…。」

この酒場からほど遠くない聞き覚えのあるホテルの名だった。

日本人か…。

今夜の獲物は、-まぁまぁだな。

手を伸ばして、女の頬に指先を這わせる。

暖かな血潮、もう自分の身体には流れていない紅い血の香りを感じる。

指先が脈を打つ。

喉の渇きが濃くなってくる。

「ね…ヤバイよ、ヤバイって…。」

虚ろになった女の背後で、怯えた、震えた声を上げた。
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