甘い唇は何を囁くか
今更、もう遅い。

カタン

立ち上がり、女の腰に手を回す。

名も知らぬ女の身体が柔らかく硬直した。

紅く上気する女の体温、それにつられて果実のような甘い香りが高くなる。

うなじに鼻を近づけて、すぅと吸い込んだ。

「や…!」

女がビクリと震える。

怯えとー欲情とーーより、色濃いのは、女の本能だ。

見つめながら、囁きかける。

「俺が、欲しいだろう?」

身体が熱くなっている。

棒立ちに硬直した、もう1人の女も。

悪魔に魅入られたら、逃れることはできない。

シスカは片方の手を伸ばし、女を招いた。

「お前が欲しい。」
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