甘い唇は何を囁くか
男と女の欲望を満たすには、時間はかからない。

ヴァンパイアの魅力は、魔力。

この唇でその名を呼べば、女はたちまちこの手に堕ちる。

その軟らかな肉体を貪るように、喰い散らかすと、女は悲鳴に似た甘い声を上げる。

それが、どの国の女であろうとも同じ。

この手の中では、あらゆる女がただの食い物に変貌する。

女の高潮が最高まで登りつめた時に、柔い首筋に牙を立てる。

身体に流れてくる、薫り高いワインの味。

もはや、人間の心などありはしない。

ズキン

シスカは同じベッドの上で横たわるふたりの裸の女の間で胸を押さえた。

何だ…?

痛むはずの胸は、もうとうの昔に失ったはずだ。

目を瞑っても、この人間のように眠りにつくこともできない―。

血を啜り、肉を食む、あの夜…枕辺で言った美しいあの女の言ったとおり―。

ぐっと拳を握り締め、シスカはベッドから降りた。

隆々と筋肉のついた美しい裸体のまま、窓際に近付く。

今宵は満月だ。

こんな夜には、牙が疼く。

また―、欲しくなる…。

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