甘美な蜜のプワゾン
そうこうしている内に扉が閉まってしまう。

(あ……閉まっちゃったけど)

チラリと太郎を見てみると、平然とした顔でスマホを弄っていた。

右京は不満そうな顔をしながら、ずんずんと太郎の元へと歩いてくる。

「太郎、お前なにしてんだ。どっか行くのか?」

「んー……まあね。右京は帰ってもいいよ」

「まあねって、何だその適当な返事は……。しかもドア閉まってから言うな」

右京は1人ぶつぶつと文句を言っているが、太郎に付き合う気のようだ。

現に次の駅でも降りず、太郎の前を陣取っている。

それはまるで、周囲から少しでも太郎が見えないように壁を作っているかのように……。


――ゴトゴトと僅かに揺れる車内。

蘭はこっそり太郎の向こう側を覗いた。
窓を背にしたロングシートには、太郎の横は誰も座ってない。

それなのに、蘭の腕に触れる太郎の腕。

(近すぎる……)

「太郎先輩……」

「ん?」

「座席すごく空(す)いてますね」

ニッコリと蘭が遠回しだが笑って言うと、太郎は周囲を見渡してからニッコリと極上スマイルを炸裂させてくる。

「だね。あの混みようが嘘のようだ」

「ですよねぇ……あはは」

(違うって!)

目で必死に訴える蘭だったが、太郎が理解する気配はなかった。


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