甘美な蜜のプワゾン
半年程前に外での撮影で、現場が近かかったのか、わざわざ美神 理緒が稟の撮影を見に来てた事があった。

撮影が終わると自信たっぷりな笑みで稟を誘う大物女優に、周りのスタッフやモデル仲間は遠巻きに様子を見るしかなかったが、稟は理緒のプライドを傷付けないよう、上手く断った。

相手が大物過ぎるが故、遊ぶ相手を間違えると、この業界では生きてはいけない。

そうは言っても、例え稟が新人だったとしても誰も西園寺の人間を潰せる者はいないが。

しかし、稟はそういった権力を笠に着る事に嫌悪している為、自力でカリスマモデルとしての地位を確立させ、その努力が周りをも認めさせたのだ――。


リリは稟の返事にホッとしてから時計を見る。

「蘭、そろそろ用意しなくちゃ、長瀬くん待ってるわよ」

「あ! そうだ急がなきゃ」

慌ててリビングから出ていく蘭を稟は目で追いながら「何? 結局、長瀬に送ってもらってんの?」と笑う。

「そうなの。最近になって駅まで送り迎えしてくれてるのよ」

「ふぅん……」

あれほど頑なに送迎はいらないと言っていた蘭だったが、ついには長瀬の執念に負けたのかと、そんな友人と妹2人に稟は1人笑った。

実際、蘭が太郎たちに送ってもらった次の日から、長瀬は頑としてそれを譲らなかった。

他の男に送らせるくらいなら、自分がと聞かなかったのだ。

「長瀬さん、すみません。お待たせしました」

「いえ、全然待ってません。お嬢、おはようございます」

「そ、そうですか……良かったです。おはようございます……」

いつもはムスッと無表情な長瀬が嬉しそうな顔を見せると、蘭は何も言えなくなってしまう。

本当は未だに送迎に関しては遠慮したかったのだが……。

長瀬の運転する後部座席で、蘭はこっそり溜め息を吐くしかなかった……。

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